【症例紹介】うつ病

治療

最近、何をしてもやる気が起こらないんです。

 

なんだか気分が晴れない。病気ほどではないけど、体調がすぐれない。
そんな人たちの悩みを解消する手段として、東洋医学が注目を集めています。
イギリスでも、うつ病治療の選択肢として、薬が効かない患者への効果が確認され、日本の研究からは、「脳活動の活性化」が期待される結果も出てきました。

 

西洋でも鍼灸治療は認められている

 

イギリスで最初にヨーク大学鍼灸学の教授となった

ヒュー・マクファーソン先生が72歳で膵臓がんで亡くなられました。

 

2020年8月25日『ヨークプレス』
「ヒュー・マクファーソン:夫、父親、養蜂家、サイクリスト、鍼を科学化した人物」
OBITUARY: ‘He always seemed to have time for things!’ Hugh MacPherson – husband, father, beekeeper, cyclist and the man who put the science into acupuncture

ヒュー・マクファーソン先生と言えば

2013年に行った大規模研究に注目が集まったことで一躍有名になった方です。
うつ病患者755人に対して、「カウンセリング」と「鍼灸治療」の効果を比較したところ、

同等の効果が確かめられたというものです。

 

2013年9月24日
「うつ病のプライマリケアにおける鍼とカウンセリング:ランダム化比較試験」
Acupuncture and Counselling for Depression in Primary Care: A Randomised Controlled Trial
Hugh MacPherson
PLoS Med. 2013;10(9):e1001518. doi: 10.1371/journal.pmed.1001518. Epub 2013 Sep 24.

鍼治療は、標準的な医療の有効性を高め、慢性的な痛みやうつ病の重症度を軽減することができると、健康の専門家は発見しました。

2017年1月30日『サイエンスデイリー』
「鍼は慢性痛やうつへの標準的医療ケアの効果を促進させる」
Acupuncture boosts effectiveness of standard medical care for chronic pain, depression

 

うつ病の治療と鍼灸治療

 

世界保健機関(WHO)はうつ病や神経症に鍼灸が有効である可能性を支持しています。

中医学では「心身一如」というように、心と身体は切っても切れないものだと言われています。
身体を病めばもちろん心を病むことともつながって、逆に心を病めばもちろん身体を病むということであると考えられています。

東洋医学では、身体の状態を改善することが精神の健康にも役立つという考えが根本にあります。

とはいえ、鍼灸はその方法論がたくさんあって、その抗うつ効果をみなさんにわかりやすく表現することは簡単ではありません。

特に日本の鍼灸では「百人の鍼灸師がいれば、百通りの鍼灸がある」と言われます。
体系化された手法、要するにマニュアルというものはないんです。
個人の経験則に頼りすぎている側面もあります。
なので、ヒトコトで鍼灸師と言っても、その経験も技術力も千差万別です。

 

 

鍼でなぜ、うつ病の症状が改善するのか?

 

詳しいメカニズムはまだ研究途上ですが、鍼によって、脳にも変化が起きることが、最新の研究でわかりつつあります。

 

鍼治療の前後で、脳の血流量を見たところ、特に、前頭葉で大きく改善。

脳活動が活発に炎症物質を減らしたことが、脳の神経細胞の活動を活性化し、その結果、うつ病の症状が改善したのではないか?
今、検証が進められています。
世界で普及が進む 鍼灸治療
こんな記事を見つけました。https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_1132.html

1.そもそもうつ病って何?

 

うつ病は、ヒトコトで説明するのはたいへん難しい病気です。

 

脳のエネルギーが欠乏した状態で、憂うつな気分やさまざまな意欲(食欲、睡眠欲、性欲など)の低下といった心理的症状が続きます。
さまざまな身体的な自覚症状を伴うことも珍しくありません。

つまり、エネルギーの欠乏により、脳というシステム全体のトラブルが生じてしまっている状態と考えることもできます。

日常生活の中で憂うつな気分を味わったとき、時間の経過とともに改善しない、あるいは悪化する場合には、「病気」としてとらえることになります。

 

2.うつ病の原因

 

さまざまな研究によって分かっていることは、「うつ病を引き起こす原因はひとつではない」ということです。

非常につらい出来事が発症のきっかけになることが多いのですが、それ以前にいくつかのことが重なっていることも珍しくありません。

生活の中で起こるさまざまな要因が複雑に結びついて発症してしまうのです。
さまざまな要因によってうつ病を発症している時、脳の中はどうなっているでしょうか。

 

最近の研究では、脳内の神経細胞の情報伝達にトラブルが生じているという考え方で一致してきています。

脳の中では神経細胞から神経細胞へさまざまな情報が伝達されます。

その伝達を担うのが「神経伝達物質」というものです。

なかでも「セロトニン」や「ノルアドレナリン」といわれるものは、人の感情に関する情報を伝達する物質であることが分かってきました。

さまざまな要因によって、神経伝達の機能が低下し、情報の伝達がうまくいかなくなり、うつ病の状態が起きていると考えられています。

 

西洋医学ではどんな治療をするの?

 

うつ病の治療には「休養」、「薬物療法」、「精神療法・カウンセリング」という大きな3つの柱があります。

こころの病気の治療は特別なものと考えがちですが、この治療の3本柱は身体疾患と基本的に同じです。

 

1・休養

 

人間の身体は本来、傷んだ部分をあまり使わないようにすることで自然に回復していく力を持っています。

うつ病は脳のエネルギー欠乏によるものですので、使いすぎてしまった脳をしっかり休ませるということが治療の基本といえます。

 

2・薬物療法

 

治療には「休養」が何よりも大事ですが、痛みなどの苦痛な症状により休養が十分に取れないことがあります。
うつ病では、脳内の神経細胞の情報伝達にトラブルが生じています。
そのため、脳の機能的不調を改善し、症状を軽減するために薬物療法が行われます。
うつ病には、「抗うつ薬」という種類のくすりが有効であると考えられています。

抗うつ薬によって、「人格が変わってしまうのでは」、「自分ではなくなってしまうのでは」という不安や恐怖を感じる方がいらっしゃいますが、もともと自分が持っているセロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質が有効に機能するようサポートするのが、抗うつ剤の役割です。

具体的には、もともと自分の脳内の神経細胞内にあるノルアドレナリンやセロトニンなどが、神経細胞と神経細胞の間で多くなるよう働きかけます。
ただ、抗うつ薬は即効性のある薬ではないため、効果が現れるまでに少し時間がかかります。

効果の発現にはおおむね2週間くらいとお考えください。時にすぐに効果が現れないからと服薬を中断してしまう方がいますが、主治医の指示に沿って一定期間継続することが大切です。
また、多くのうつ病患者さんは不眠を伴っています。

また、不安感や恐怖感などで苦しんでいる方もおられます。

これらの症状には睡眠導入剤や抗不安薬(精神安定剤)などが併用されることは珍しくありません。これらの薬物は抗うつ薬と違って即効性がありますので、服用後から効果が現れます。

 

3・精神療法・カウンセリング

 

「うつ病を引き起こす原因はひとつではない」ので、休養と薬物療法のみでは治療できません。

抗うつ薬で環境要因は解決しませんし、ましてや性格傾向も変わりません。

精神療法・カウンセリングは主に再発予防という観点が中心となります。

同じような状況の中で、うつ病が再燃・再発しないように、ご自身の思考パターン・行動パターンを見直すということになります。

 

4・うつ病の予後

 

うつ病は治療を始めればすぐに治療が終わるというものではありません。

骨折など病院に通う必要のある身体疾患と同じように、治癒していく過程にはある程度の期間が必要になります。

治っていく経過も、良くなったり、悪くなったりという小さな波をもちながら、階段をゆっくりと1段ずつ上るように改善していきます。

そして、うつ病の8割ほどはほとんど以前の元気が回復している状態=「寛解」状態を迎えることができるとされています。
治療の期間は「急性期」、「回復期」、「再発予防期」と大きく3つの期間に分かれると考えられます。急性期にいちばん重視すべきなのが休養、回復期は薬物療法、再発予防期は精神療法・カウンセリングとなります。つまり、それぞれの期間の重点は治療の3本柱にも相当すると考えてよいでしょう。

 

最後に大切なことをひとつ述べます。それは「元気が回復してもすぐに薬は止めない」ということです。

「回復期」の途中で寛解の状態を迎えます。

その時自己判断で薬を止めてしまう方が珍しくありません。

その結果せっかく寛解まで来たのに再発してしまうことがあるのです。

薬を減らしていくタイミングは主治医の先生によく相談することが大切です。

長期の服用は心配だと思いますが、この点は、血液のデータが改善しても生活習慣が改善していなければ、服用を止めると生活習慣病は再発するのと似ています。

根気強く「再発予防期」を過ごすことが大切なのです。

 

 

まとめ

 

  • 世界保健機関(WHO)はうつ病や神経症に鍼灸が有効であると言っている。
  • 中医学では「心身一如」というように、心と身体は切っても切れないもの。
  • 2020年亡くなったヒュー・マクファーソン先生によって、うつ病は「カウンセリング」と「鍼灸治療」の効果を比較したところ、同等の効果が確かめられた。
  • 西洋医学のうつ病の治療には「休養」「薬物療法」「精神療法・カウンセリング」という大きな3つの柱がある。
  • 「薬物療法」で自己判断で薬を止めてしまうのは危険。

 

多聞先生
多聞先生

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